このページの要点
- 別紙にない業務でも、性質上当然に含まれるものと委託者が合理的に指示したものは業務に含め、別紙の変更は代表者の書面合意に限る。
- 日常の外注は包括承諾、実費は事前の書面承諾と証憑、上限と費目は精算基準で定める。
- 損害賠償を故意・重過失に限らず、行政対応費用や営業損失など宿泊施設に特有の損害を対象にする。
- 運営会社の切替えでは、予約サイトの移行に合わせて解約日を指定できる項と、終了時の返却・精算を置く。
結論:本文・別紙・別表の優先関係と改定の手続、別紙にない業務の扱いを最初に決める
宿泊施設の所有者が、予約の管理、宿泊者への対応、清掃、設備の確認、近隣からの苦情への対応といった運営の業務を運営管理会社に委託する契約では、業務の範囲が広く、日々変わります。そのため、契約書は本文に加えて、業務の内容を書いた別紙と、報酬と精算の方法を書いた別表の三部で構成されることが多く、三つの書面がどういう関係に立つのかが契約の要になります。別紙に書いていない業務は委託の範囲外なのか、別紙はどうやって変えるのか、本文と別紙が食い違ったらどちらが優先するのか、です。
事務所は、遠方に住む宿泊施設の所有者(委託者)の依頼で、新しい運営会社(受託者)が作成した契約草案をレビューし、修正版の契約書、別紙の業務内容実施要領、別表、契約条項に関する合意確認書を作成しました。運営会社を前の委託先から切り替える場面で、前の委託先との簡素で包括的な契約と比べながら、新しい草案が委託者にとってどう変わるのかを検討した案件です。
このページでは、その書類から、受託者作成の草案で委託者が確かめるべき点、修正版での書き方、別紙に書いた具体的な業務、報酬と実費の精算、運営会社を切り替えるときの終わり方を紹介します。建物管理会社が協力会社に作業を委託する契約は建物管理の業務委託、施設の一部を時間で使わせる契約は貸す契約の型のページで扱います。
受託者が作成した草案をレビューして見えたこと
新しい運営会社の草案は、本文14条に別紙の業務内容と別表の報酬を付けた三部構成で、形式は整っていました。けれども、委託者の立場で読むと、次のような点で委託者に不利な構成になっていました。前の委託先との契約は条文が少なく、業務を包括的に委託していたため、委託者が必要に応じて指示を出せる柔軟さがありましたが、新しい草案は業務を細かく区分した分、別紙にない業務は対象外と読まれやすくなっていたのです。
草案の主な問題点(委託者の立場からのレビュー)
| 条 | 草案の内容 | 委託者から見た問題 |
|---|---|---|
| 業務範囲と別紙 | 業務は別紙に定め、本文と別紙が違えば別紙を優先する。別紙の変更の手続の定めがない | 受託者が業務の範囲を限定でき、別紙にない業務は対象外と解釈されかねない。別紙の変更の効力要件が不明 |
| 業務の監督 | 善管注意義務と法令遵守を定めるのみ | 業務の報告、改善の要求、定期の評価など、委託者が業務を監督する権利の定めがない |
| 再委託 | 再委託には毎回委託者の事前承諾が必要 | 清掃・修繕・夜間対応など日常の外注まで毎回承諾を求めるのは運用上の負担が大きい。再委託先の名称・業務・期間の通知もない |
| 実費・立替費用 | 別表に「領収証提示を要する」とあるのみ | 事前承諾の要否、上限額、費目の範囲が不明で、契約にない備品購入や外注費を事後に請求されるおそれ |
| 秘密保持 | 営業情報等の漏えい禁止、終了後3年存続 | 宿泊者名簿・予約システムのアカウント・パスワードが明記されていない。再委託先に同等の義務を課す定めがない |
| 損害賠償 | 受託者は故意又は重過失による直接かつ現実の損害に限り賠償。特別損害・逸失利益は免責 | 営業停止による売上の損失や信用の毀損がすべて除外され、委託者の救済が著しく制限される |
| 更新と途中解約 | 1年の自動更新。30日前の通知で双方が途中解約できる | 自動更新後も途中解約の条が及ぶのか曖昧。途中解約の際の費用負担・精算・引継ぎの定めがない |
| 受託者の解除 | 「甲の指示が法令違反となるとき」「乙の業務遂行に重大な支障が生じたとき」など抽象的な事由で受託者が解除でき、受託者が解除しても委託者が賠償する | 受託者の主観で解除を正当化でき、契約の均衡を大きく損なう |
| 地位の譲渡 | 譲渡禁止のみ | 合併・事業譲渡などの包括承継の特例がない |
修正版での書き方:業務範囲・再委託・実費・損害賠償
事務所の改訂例 宿泊施設の運営管理委託契約(委託者側の修正)
別紙にない業務
別紙を優先させる規定は、別紙が改定され得ることを考えると法的な安定を損ないます。別紙にない業務の扱いと、別紙の改定の効力要件を本文に置きました。
報告と改善
委託者が遠方に住んでいる案件では、報告と改善の請求が監督の唯一の手段になります。
再委託
日常の外注は包括承諾で回し、委託者は求めればいつでも再委託先を把握できる形にしました。
実費・立替費用
事前承諾を原則にし、事後の請求で費用を負担させられることを防ぎました。
損害賠償
宿泊施設では、運営の不備が行政指導や営業停止、口コミによる評判の低下に直結します。賠償の範囲をその実態に合わせました。
修正版では冒頭に定義の条を置き、「本件業務」を本契約と別紙に定める業務一切で、将来の書面の合意で追加・変更された業務を含むものと定義したほか、「秘密情報」「不可抗力」「契約期間」「通知」「業務成果物」「関連法令」を定めました。「通知」は書面・電子メール・電子契約サービスなどによる一切の意思表示とし、「業務成果物」は受託者が業務の遂行で作成して提出する報告書・写真・記録・ファイルとしています。「関連法令」には旅館業法・建築基準法・消防法・個人情報保護法などを挙げ、受託者がそれらと行政の指導を守って業務を行うことを目的の条で確認しました。定義を先に置くと、別紙や別表の書き方もこの言葉に合わせてそろえられます。退出後の破損の確認で見つかった損傷を宿泊者にどう請求するかなど、施設の利用者との関係は、時間貸しの施設の規約(駐車場・スペース貸しの契約)と同じく、利用規約やハウスルールの側で決めておく事項です。
秘密保持の条では、秘密情報の定義に、宿泊者名簿、予約システムの情報、パスワードなどの個人情報を例示し、受託者が再委託先を含む第三者に秘密情報を提供するときは同等の秘密保持義務を含む契約を結ばせて監督すること、終了後も5年間存続することを定めました。反社会的勢力の排除の条には、再委託先にも同等の義務を課し、該当が判明したら書面で通知する義務を加えています。
別紙「業務内容実施要領」に書いた業務
別紙の冒頭では、委託者が遠方に住んでいる事情を踏まえ、別紙に定める業務と、その性質上当然に含まれる業務、委託者が合理的に指示した業務を受託者が行うことを確認しています。そのうえで、業務を宿泊者対応、清掃・衛生管理、設備保守・安全管理、緊急対応、報告、その他の6つに分けて具体的に書きました。
別紙に書いた主な業務
| 区分 | 主な業務 | 書き方の工夫 |
|---|---|---|
| 宿泊者対応 | 予約サイトでの予約管理、問い合わせ対応、利用規約・ハウスルール・チェックイン案内の送付、スマートロック・キーボックスによる非対面のチェックイン、本人確認、宿泊者名簿への記録と保管、未着時の連絡、鍵の返却確認、チェックアウト後の破損確認、遺失物の処理 | 問い合わせは日本語と英語を義務とし、その他の言語は可能な範囲で対応を試みるが義務ではないと明記。予約サイトの追加は協議のうえ書面で範囲を変更 |
| 苦情と不適切な行為 | 近隣からの騒音・迷惑行為の苦情の受付、緊急時の現地確認、警察・消防への通報、処理結果の報告。過度な騒音や器物損壊などへの是正の要請 | 是正されないときは委託者と協議のうえ宿泊の中止や退去の対応をとる、と委託者の関与を残す |
| 清掃・衛生 | チェックアウト後の清掃、換気・湿気管理、ゴミの分別・保管、浴槽や加湿器の洗浄と湯抜き、リネンの交換・洗濯・補充、日用品の補充 | 水回りの衛生管理を利用ごとの作業として具体的に書く |
| 設備・安全 | 水道・電気・ガスの動作確認、扉・窓・鍵の点検、空室時の施錠確認、火災報知器・消火器の設置状況の確認、設備の不具合の現地確認 | 小規模なトラブルは受託者が応急対応し、修繕が必要なものは委託者に報告して合意のうえ手配する |
| 緊急対応 | 火災・地震・水漏れでの現地対応、宿泊者の安全確保、関係機関への通報 | 承諾を待てない緊急の作業は受託者の判断で行い、内容と費用を速やかに報告し、別表に基づき精算 |
| 報告 | 前月の稼働状況・トラブル・清掃状況の月次報告。契約終了時の書類・鍵の返却と精算 | 月次の報告を請求書の添付書類にする |
宿泊者名簿については、旅館業の営業者は宿泊者名簿を備えて宿泊者の氏名・住所・連絡先などを記載し(旅館業法6条1項)、作成の日から3年間保存するものとされています(同法施行規則4条の2第1項)。別紙では「宿泊者名簿への記録と保管(法定3年間)」と書き、記録と保管を受託者の業務に含めました。遺失物は遺失物法に基づいて処理する、と書いています。法令上の義務を負うのは営業者である委託者側なので、その義務の履行を受託者の業務として別紙に落とし込んでおくことで、運営会社が替わっても名簿の保管が途切れないようにします。
報酬と実費の精算を別表に書く
別表では、報酬を、運営を行った宿泊施設の売上総額(予約サイトの手数料などが差し引かれる前の金額)に一定の割合を掛けた管理手数料、チェックアウトごとの清掃費、年に一定回数以上行う除草の費用に分けて定めました。除草に伴う資材や道具の費用は受託者の負担とし、除草の実施報告を求めています。実費については次のように書きました。
別表の実費・精算のルール
- 備品購入費・外注費・第三者業者の手配費など合理的かつ必要な実費は、委託者が事前に書面で承諾した場合に限り委託者が負担する。受託者は領収書等を添付して請求する。
- 委託者が負担した実費は、委託者が保有又は管理する宿泊施設の業務に限って使い、他の施設や用途に転用しない。
- 緊急対応で、夜間などの事情で受託者が何度か報告しても承諾を得られない場合に限り、少額のやむを得ない支出を事後の報告で精算できる。
- 受託者は前月分の収支明細(収益と支出)を毎月決まった日までに報告し、委託者はそれに基づいて報酬と実費を支払う。
- 受託者が免税事業者から課税事業者に変わるときは、効力発生日の前月末までに登録番号と変更日を文書で通知し、適格請求書の発行に移る。
草案では、遅延損害金の定めが委託者側にしかなく、受託者側の報告の遅れや対応の遅れに対する定めがありませんでした。修正版では、受託者が報告義務を果たさなかったり業務に著しい不備があったりした場合に、委託者が是正を求め、是正されなければ報酬の全部又は一部の支払を留保できるとし、委託者の支払の遅れについても、受託者が収支明細を適切に報告したにもかかわらず再三の催告に応じない場合に遅延損害金を負担する、という形にしました。支払と報告を対にしておくことで、どちらか一方だけが義務を負う構成を改めています。
委託者に有利な条項と、合意確認書の位置付け
修正版では、依頼者の意向を反映して、委託者に有利な条項を置いています(依頼者の方針によると見られます)。更新を拒む通知は委託者からのみ行うこと、委託者は理由を問わず60日前の通知で途中解約できること、受託者は期間中や更新時に管理料などの契約条件の一方的な変更を求められないこと、報酬は原則として長期間変更しないこと、受託者が解除する場合は、解除の正当性を示す合理的な理由と客観的な資料を添えて書面で通知すること、などです。
あわせて、受託者が条項の内容について説明を受け、自らの自由な意思で合意したこと、委託者に有利な特定の条項(更新、途中解約、報酬の固定)を理解して合意したことを確認する「契約条項に関する合意確認書」を別に作成しました。説明と理解の経過を書面に残しておくことは、後に「そんな条項だとは知らなかった」という主張が出たときの事実の記録になります。ただし、確認書は条項そのものの有効性を補うものではありません。公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とされており(民法90条)、確認書に署名があっても、条項の内容が無効とされるものであれば有効にはなりません。一方に有利な条項を置くときほど、その条項を置く理由と、相手方にとっての見返り(報酬の水準や業務の範囲など)を契約の全体の中で説明できるようにしておくことが大切です。
運営会社を切り替えるときの終わり方
この案件は、前の委託先から新しい運営会社に切り替える場面でした。運営会社の切替えでは、予約サイトのアカウントや予約の移行が数か月にわたることがあり、その間に契約の満了日が来ると、移行が終わらないまま前の運営会社との契約が切れてしまいます。修正版の期間の条では、委託者からの更新拒否の通知を満了の60日前までと定めたうえで、予約サイトの移行作業が必要で、その作業が満了の60日前を超えて続くやむを得ない事情があるときは、委託者が作業の完了の時期に応じて柔軟に解約日を指定できる、という項を置きました。自動更新された後も途中解約の条が適用されることも明記しています。
地位の譲渡については、受託者による無断の譲渡を禁じる一方、合併・会社分割・事業譲渡などの包括承継の場合は例外とし、承継後速やかに相手方に通知することとしました。委託者が宿泊施設を第三者に承継させた場合には、受託者は報酬その他の条件を変えずに承継先との間で契約を続ける、という項も置いています。施設の売却や事業の再編のたびに運営の条件を交渉し直さなくて済むようにするためです。契約内容の変更は、変更内容・理由・影響の範囲・発効日・精算の要否と費用負担などを協議して書面で合意し、発効日の記載がなければ双方が署名又は承認した日に発効し、口頭や黙示の変更は修正とみなさない、と定めました。
ヒヤリングで確かめること 宿泊施設の運営を委託する前に
- 委託者は施設の近くに住んでいるか。現地で判断できる人はいるか。別紙にない業務の扱い、緊急時の判断の権限、報告の頻度を決める前提です。
- 前の委託先との契約はどう終わるか。予約サイトのアカウントは誰の名義か。移行の期間と解約日の指定、アカウントの引渡しの段取りを決めるためです。
- 清掃・修繕・夜間対応を受託者が外注するか。包括承諾とする業務の範囲と、再委託先の通知の方法を決めます。
- 報酬は売上連動か、固定か、作業ごとか。実費の上限はいくらにするか。別表の報酬の構成と、実費の事前承諾・上限を決めます。
- 宿泊者名簿や予約の情報は、どこに、誰の管理で保存するか。秘密保持と名簿の保管、終了時の返却を書くためです。
宿泊施設の運営委託で起きがちなこと
よくあるご質問
宿泊施設の運営代行の業務範囲を別紙に書くとき、何に注意すればよいですか?
本文と別紙の優先関係、別紙の変更の手続、別紙に書いていない業務の扱いを本文で決めておくことです。事務所の修正版では、性質上当然に含まれる業務と委託者が合理的に指示した業務も本件業務に含め、別紙の変更は双方の代表者の書面合意に限るとしました。
運営会社が清掃を外注するのを認めてもよいですか?
認める場合は範囲と管理の方法を決めます。事務所の修正版では、再委託は原則として事前の書面承諾とし、清掃・簡易修繕・設備点検・緊急対応などの定型的な業務は包括的に承諾したものとみなし、再委託先の名称などを求めに応じて通知させ、同等の守秘義務を課す形にしました。
運営会社の損害賠償を「故意又は重過失」に限る条項は問題ですか?
委託者の立場では、運営の不備による行政対応費用や営業損失が賠償の対象から外れるおそれがあります。事務所の修正版では、軽過失を含む過失による損害を賠償の対象とし、予見可能な範囲で行政対応費用・営業損失・専門家報酬などの特別損害も対象としたうえで、軽過失は重大な義務違反の場合に限る形で調整しました。
運営会社を切り替えるとき、契約で決めておくことは何ですか?
予約サイトの移行期間と解約日の指定、終了時の書類・鍵・情報の返却と精算、更新後も途中解約の条が適用されることを決めます。事務所の修正版では、移行作業が長引くやむを得ない事情があれば、委託者が作業の完了時期に応じて解約日を指定できる項を置きました。
合意確認書を作れば、一方に有利な条項も有効になりますか?
なりません。合意確認書は、説明を受けて自由な意思で合意した経過を記録する書面で、条項そのものの有効性を補うものではありません。公序良俗に反する条項は確認書があっても無効です。有利な条項を置く理由と、相手方にとっての見返りを契約全体で説明できるようにしておきます。
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